平成15年5月20日

UJI 花散歩 弐百四拾弐

語るも旅のひとつかな―カキツバタ

 カキツバタ(杜若)の名は、布に花をこすりつけて染めたことから「書き付け花」が転訛したものと言われています。カキツバタは万葉の時代からあります。

杜若衣(きぬ)に摺りつけ丈夫(ますらお)の
           きそひ猟(かり)する月は来にけり  大伴家持

『伊勢物語』の「八橋の段」で在原業平と思われる男がカキツバタの5文字を歌に読み込めと言われ、旅の心を詠んだ歌があります。

(か)唐衣(き)着つつ慣れにし(つ)妻しあらば
          (ば)はるばる来ぬる(た)旅をしぞ思う

 観世流の能に「杜若」というのがあります。旅僧が京都から関東への途中、三河国(愛知県)の沢辺に美しく咲く杜若の花に見とれていると、そこに女が来て「ここは八橋といい、古歌にも詠まれた名所だ」と言います。昔、在原業平が東下りの折り、ここで休み、カキツバタの五文字を頭において歌を詠んだ故事を語り、自分の庵に案内して宿をも勧めました。やがて女は業平が宮中で豊明節会に五節の舞で付けた冠を被り、色艶やかな二条ノ后の唐衣をつけて現れたので、僧は不審に思い素性を尋ねると、自分は杜若ノ精だが、業平は歌舞の菩薩の化現なので、その歌の功徳で非情の草木も成仏したと告げ、『伊勢物語』や業平と二条ノ后との恋物語を我が事のように語り、艶やかな舞を舞ってみせます。杜若の花ノ精には違いないが、時に二条ノ后になり、あるいは業平のようにもあり、まことに曖昧ながら、二重三重に映るファンタジックな美しい舞台面は、さながら『伊勢物語』の絵巻物で、理屈抜きに見る者の心を和ませます。

杜若語るも旅のひとつかな  芭蕉              (愛泉荘周辺)













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